2020年7月6日に行われた、「一般社団法人プロティアン・キャリア協会設立記念セミナー」には100名の定員先着枠が埋まるなど、多くの方々にご参加いただきました。
ここでは、セミナーの内容から、特に重要なポイントを文字に起こしてみました。

今までは会社で昇進していって課長、部長と上がっていくキャリアがイメージしやすかったがプロティアンキャリアではどうか。

田中
ポイントは気づきましょうということです。何に気づく必要があるかというと「2つの歴史的ショック」
1つ目は2019年の経団連の中西会長とトヨタの豊田章男社長が、「日本で3種の神器の一つであった終身雇用制は企業としても厳しくなっている」とのパブリックメッセージを発したこと。
2つ目は2020年のコロナウィルスにより社会環境が大きく変化したこと。
そうすると従来の単線的なキャリア(組織内での昇進)は否定しないが、適切なセーフティネットを張らないとリスクが大きい。
組織自体が倒れる場合もあるし、組織よりも自分たちのキャリアのほうが長いという事実に鑑みると、今までの先輩たちの考え方とは変えて、自分たちで主体的にキャリアを開発していく必要がある。
これは組織に歯向かうわけではなく、むしろ組織を支えてリードしていく次世代プロティアンリーダーに必要な心構えである。

コロナの影響等もあり生き方として変わることはありますでしょうか。

古川
自分自身も元々哲学をやっていたためアイデンティティについてはずっと考えてきた。ヨーロッパ哲学などを学んだり色々迷いながら経験してきたが、お坊さんをしていてその経験が生きている。それが今の広い守備範囲につながっている。
アイデンティティの話に戻ると、私はこういうものですという固定的なアイデンティティを求めることをしていたから日本経済は行き詰まったと考えている。その時代ごとに代表するアイデンティティがある。時代ごとに価値観や環境などあらゆるものが変わっていく。
特に19世紀終わりから20世紀にかけて生産性が上がって大きく社会構造が変わった。その結果従来の固定的なアイデンティティが崩れていった。
20世紀後半にさらに世界が多様化していき次々とアイデンティティクラッシュが起きてしまった。
禅はアイデンティティを固定せずどんどん変化させていく、仏教のキーワードは時間。常に移り行くということ。
だからアイデンティティは固定的なものではなく変わるのが当たり前。
ただ一段一段階段は上がっていく必要がある。軸足を持ってはダメ。
これからは、変わりゆくものの中にアイデンティティを見つけていく時代になっていく。
田中
アイデンティティは変わるものというのは変わるものというのはとても共感していて、プロティアンの中のアイデンティティとアダプタビリティは両方掛け合わせて変幻だと考えている。そういう意味でプロティアンは同じ考え方に乗っかっている。
無理にアイデンティティを変える必要はないが時代によってバージョンを変化させていく。

従来キャリアとプロティアンキャリアの関係性の質問 46分

田中
プロティアンキャリア論は、蓄積が重要な従来キャリアのトランジションモデルです。
例えば、学童期、社会人、ファーストキャリア形成期、ミドル期、シニア気、のように考えていたが、もっと細かい単位で役割もアイデンティティも変わってく。
変幻というと「従来の自分を失って変わっていくもの」と捉えられることがあるが、そうではなくプロティアンキャリアでの変幻は蓄積である。つまり地層のようにしっかり積み重なっていく中の変幻であることを意味しています。
選択でとらえていたものから蓄積へ、これが従来型キャリアとの違いです。

キャリアを考えるときには収入等のお金の部分も大事かと考えている。キャリアを変幻自在に変えていく事とマネー戦略のバランスのとり方はどう考えればよいか

和泉
今まで企業でライフプランセミナーをするときは、今の会社の昇給を含めた収入からライフプランを考えていた。しかし今後社会環境が激しく変化するなどして将来の収入が予測できない場合に、必要最低年収から逆算するという考え方をしている。
キャリアから考えるのではなく、自分たちはどういう暮らしがしたいかを起点に考えていく。自分たちの望む暮らしというのも時代の変化とともに変わっていくものであるが、ここだけは譲れないというものを積み上げた結果の、「必要最低年収」を可処分所得で考える。
そうすると、無理して年収をあげようとしている人がそんなに稼がなくていいと思える場合もある。子供が自立したら経済的に楽になる。都内で家を買いたいからローン返済はいつまでは最低必要になる。といったように収入よりライフプランを先に考えたほうがいい。

プロティアン的なのマネー戦略でいうとどうでしょうか。

田中
前提として、キャリア論とは自分探し等の哲学的な問いに行き過ぎていた。それは大切ですが、それだけでは足りない。生活があるし人生や家族にも密接に関係があるので、机上の学問だけではだめというのが前提。今まではキャリア論とお金を一緒に考えている人があまりいなかった。しかしお金について知見があるFPの人がそれをやっているからそこと接合させていけばいい。
プロティアンキャリア論では金銭的な資本だけではなく、社会関係資本とビジネス資本を入れているのでそれぞれの蓄積やネットワークも価値である。それらはお金になるまでのタイムラグがあるから戦略的に設計する必要がある。
上記のようにキャリア開発には準備期間が必要であるため、変化が必要な時期を見定めて戦略的に準備を進めていく必要がある。
アダプタビリティでいうと、それを高めると器用貧乏になってプロになれない?という問いがあると思いますが、
プロフェッショナルは大事だが逆にプロフェッショナルであることがリスクになるときがある。例えば客室乗務員のプロフェッショナルになった場合、コロナのような状況時には働くことができない。だからそれをいかしてプロティアンキャリア論では蓄積で考えるから、軸にしておくがそれだけにとらわれず、それをいかして変化するしなやかさがアダプタビリティである。
プロ人材はアダプタビリティが高い。コロナの時もすぐにオンラインに切り替える等変化に対応できている。スピーディにそれができていない人もプロティアンキャリア論を実践して変化に対応できるようになっていく必要がある。

人的ネットワークの蓄積についてナレッジブローカー(知識の仲介者)との交流が大切でしょうか?

田中
同じ職場で同じチームで業務5年しました。これで何がたまるか。自分のキャリアキャピタルたまらない。それは同じ業務を繰り返すことで単純労働化してしまって、変化に対応できなくなっていくので大変危険である。だから引き出しを増やしておく意味でナレッジブローカーとの交流はいいし、ナレッジブローカーになっていく必要がある。
古川
戦略と戦術の違いを意識して理解していく事が重要。論理で予想がつくものは戦術である。感染症や地震などで環境がガラッと変わるときには戦略の変化が求められる。その時に俯瞰的に考えられるように細やかな計算や読みより、大げさかもしれないけど、戦争があったらどうするかなど俯瞰的な読みも往復して考えていく。部分最適を積み重ねていくよりも俯瞰的な見方をしていく練習をすべきである。
そして俯瞰的にみるために自分の引き出しを増やす必要がある。自分の引き出しを増やすために、興味関心に従って様々な種類の人とかかわっていくのはとても大事である。

企業経営上は社員に辞められたくないが、プロティアンキャリア論が広がると会社を辞めてしまう人が増えてしまうのではないか。

和泉
伝統的な企業はステータスも安定もあってそれがいいと思う人が多かった。でも今は優秀な人材こそ多様なキャリアを求めて転職などを考える傾向がある。それに理解を示さない企業からはそもそも優秀な人が辞めてしまいやすい。
田中
いまは企業が変わっている姿を見せないとダメ。キャリア開発を支援するような企業であると見せないといけなくて、そのためにほかの会社に転職してもいいけどネットワークはつないでおいて将来還元できたらしてもらうような考え方をしていく。だからプロティアンキャリアは企業の研修でもよくよばれていて、商社などからもオファーがある。

プロティアンは学びだけなのか、遊びの要素はプロティアンの蓄積にならないのか

田中
プロティアンは働く事と生きる事を分けない。心理的幸福感を高めるのが目的で、よりよい人生を歩むためにどういうキャリアを歩むのかという考え方。昔は仕事を優先させられていたから子供がいるのに社内だけでの昇進等を考えて単身赴任などという状況があった。しかし生きることや生活を先に考えてそこから戦略的にキャリア開発を行えばそのような状況にはならない。人生をよりよく豊かにするための遊びというのは、プロティアンの考え方の中でもとても大事で、組織にとっても個人にとっても大事である。

メンバーシップ型からジョブ型へという今の議論とプロティアンとの違い 1間14分頃

田中
集団に帰属するポテンシャル人材が日本型雇用を支えてきた、しかし安定したシニアが自分でキャリア開発する意思をそがれる。ジョブ型は自分の武器やスキルを採用されることが増えてきた。しかし一つダメになったときに折れてしまうシングルジョブは危ない、シングルの幹となるジョブを育てながら、マルチジョブ型のキャリアロールモデルを育てていかないと、将来環境が変化したときに職に困るリスクがある。しかし組織で働くことはなくならないので、メンバーシップ型の中で自らキャリア形成をしていく事をハイブリッドでできる企業が増えてきている印象。
古川
メンバーシップ型にしてもジョブ型にしても比重を置きすぎると危ない。禅の世界ではすがることが一番よくない。不安だと人間はお金だとか地位とかにすがってしまう。そうならないためにはチャレンジする必要がある。チャレンジやワクワクすること自体が心理的な幸福である事をわすれてはいけない。失敗したってチャレンジすることを大事にする教育が必要。
和泉
自分の軸で何をするのかが幸せなのかというものを考えることが大事。選択の自由のようなものが心理的な成功や幸せにつながる。今は複業やリモートワークなどが広がって会社員である程度の保障を受けながらある程度選択の自由が増えてきている。この機会に自分の軸で、自分が幸せになるためにはどうあるべきかを考えて、それに合う選択の蓄積をしていってほしい。

育児の経験や海外生活はキャリアの蓄積になるのか

和泉
何をやっていたかを表紙(文字通り)ではなくその内容の中の一部で将来使えることがあると思う。
田中
プロティアンと子育ては親和性が高い。子育てってシングルアイデンティティを押し付けてないかという疑問がある。ピアノをやっていてもピアニストになる必要はなく、ピアノを一時期やっていたことが将来活きる時が来るという教育をする必要がある。

ザ・キャリア・イズ・デッドとはどういうことか

田中
伝統的キャリアからの転換ということをいっている本、長く生きるキャリアがこれからの時代ということを言っている本。

キャリコンとしてプロティアンをどういうアプローチで伝えていけばいいか

古川
アプローチする人で視点は違うので戦略的にいかないといけない。みんな人のことを経歴とか職務とかコンピテンシーでしか見ていないので、そこをどうやって資産を積んでいくのか、もう一度考えなくてはならない。アプローチの仕方は無限なので一概には言えないですが、アイデンティティとアダプタビリティの本質を伝えていくことが必要。
田中
プロティアンっていうのはハイキャリア用の理論ではなく組織と人の関係をよりよくするための理論であり作法である。そういったことを協会を通じて個人ではなく組織としてみんなに伝えていければいいと思っている。

プロティアンキャリアと生きがいの関連性

古川
生きがいはその人のアイデンティティでかわる。幸せだと思うのは人それぞれで、どんなことに幸せに感じるかというものに論理性なんかない。自分でこれが幸せにと思ったときにラベリングすればいい。自分の素直な感情を出すことが大事だから、自分の生きがいや幸せのラベリングをしていくことが大事。
そして引き出しを作ることが大事、プロティアンの変幻自在って私の中では引き出しである。あるときはつまらない引きだしがあるときはとても価値のあるものになる。
大事なのは知識を増やすのではなく、世間体などを気にしないで考え方のフレームから自由にする事。生きがいっていうのは自分を解放して素直な感情を大事にすること。