ジョブ・カード作成支援業務に携わるキャリアコンサルタントに求められること


皆さんは「ジョブ・カード」を知っていますか?
もちろんキャリアコンサルタントの方なら聞いたことはあるでしょう。私はその「ジョブ・カード」のリニューアルに伴い、あるキーワードが加えられていることに気づきました。今回はその意味とこれからのキャリアコンサルタントに求められるものを考えてみたいと思います。

「ジョブ・カード」とは

ジョブ・カードは、「生涯を通じたキャリアプランニング」及び「職業能力証明」の機能を担うツールとして厚生労働省が様式を定め広く普及を進めているものです。個人のキャリアアップや、多彩な人材の円滑な就職等を促進するため、労働市場インフラとして、キャリアコンサルティング等の個人への相談支援のもと、求職活動、職業能力開発などの各場面において活用するものです。
出典:ジョブ・カード制度 総合サイトより  
https://jobcard.mhlw.go.jp/job_card.html

もっとシンプルに言うと、厚生労働省が進めている「自分がどのように働いていきたいか」を考えるためのツールです。私は現在キャリアコンサルタントとして、ジョブ・カードを使用した就職支援や職業訓練を受講される方の訓練前キャリアコンサルティングを通じてジョブ・カード作成支援業務を行っています。

ジョブ・カード活用ガイド、リニューアルのポイント

2021年3月26日にジョブ・カード制度総合サイトにて、リニューアルのお知らせがありました。実際にリニューアルされたのは、ジョブ・カードの作成方法や活用方法の説明や自己理解のためのワークなどが記載してある「活用ガイド」という冊子で、今までの1種類から今回は以下の2種類になりました。
・幅広い年代の方を対象とした「汎用版」
・目安として40歳前後以降の職歴のある方を対象とした「キャリアを重ねた方向け」
出典:ジョブ・カード制度 総合サイトよりhttps://jobcard.mhlw.go.jp/advertisement/download.html

その【40歳前後以降の職歴のある方を対象とした「キャリアを重ねた方向け」】の活用ガイドの中で、今までにはない「人生100年時代」というワードが記載されたことに、私は気づきました。
「人生100年時代」とは、ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン、アンドリュー・スコットによる『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)の中で提唱された言葉です。人間の寿命が伸びていくことで、今までの人生設計や働き方が大きく変わっていくことを訴えています。
その考え方は様々な方面に影響を与え、厚生労働省でも「人生100年時代に向けて」という提言がなされています。
出典:厚生労働省「人生100年時代に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207430.html

そんな中、いよいよジョブ・カードにも「人生100年時代」というワードが登場しました。
また活用ガイドのワークの中では、
・周囲からの期待を考える(ロール・マップ、役割マップ)
・プライベートに関する事項を整理する(健康・家族・マネー)
といったように、キャリアとはこれまでのすべての経験の蓄積であり、そしてこれからを生きる羅針盤であることが表現されています。
これはジョブ・カードを推進している厚生労働省が人生100年時代を見据えたキャリア形成を推進している証でもあります。そして、これらのリニューアル内容をうけて、我々キャリアコンサルタントもしっかりとそれを受け止め、対応していくスキルが必要になってくると私は感じました。

働き方の大転換

私たちの働き方は大きな転換期を迎えています。
2018年6月成立、2019年4月から順次施行が始まった働き方改革法案により、政府は働き方改革を推進してきました。また、経済界では終身雇用制度を疑問視する声が高まり、日本型雇用の刷新が急がれています。そして、極めつけは新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより、私たちは強制的に働き方の更なる転換を強いられています。リモートでの会議やマネジメントを、うまく活用し業務改善に結びつけられた企業がある一方で、今までにない課題も見えてきました。特に社内コミュニケーションにかかわる課題は深刻で、「サイレントうつ」という言葉も生まれました。私たちは、今までに誰も経験したことのない社会の中で働いているのです。たとえワクチンが普及して、このパンデミックが落ち着いたとしても、今回の働き方の変化は続いていくことでしょう。
先の見えない時代に突入し、これまでの成功体験ややり方が通用しない局面に入っているのです。こんな混沌とした社会を生き抜くために、これからどのような働き方をしたら良いのか、その答えを、働く人の多くが知りたいと思っている中で、我々キャリアコンサルタントは何をすべきなのでしょうか。

人生100年時代を生き抜くために求められるものとは

 先の見えない時代に必要なこと。それは組織に依存せず自律的に自分自身のキャリアを考えることではないでしょうか。私たちは、自らのキャリア形成の主体が「組織」から「個人」に変化していることを認識する必要があります。そして働き方にとどまらずどんな生き方をしたいかという視点で自ら考え、決める必要に迫られています。そして、このように思考や行動を転換する支援が、我々キャリアコンサルタントには求められているのです。

このような、働き方や生き方の転換にあたり、有効な理論・実践法のひとつにプロティアン・キャリアがあります。
変幻自在に姿を変える神「プロテウス」が語源であるプロティアン・キャリアは、
・キャリア形成の主体が組織依存だった時代から、個人が自ら考える時代に変わっていること
・キャリアの成功は、年収や地位でなく、心理的成功であること
・人生100年時代には、継続的な学びが必要であること
など、これからの働き方や生き方に欠かせないエッセンスが凝縮されています。

まずはキャリアコンサルタント自身がプロティアン・キャリアを学び、自らが自律的にキャリアを考えられるようになること、その上で自律的なキャリア形成を支援することが必要になってくるのです。
相談者は先行きの見えない時代を目の当たりにして、どうすれば良いのか迷っています。まずはその気持ちに寄り添い、どうすれば一歩目を踏み出せるのかを一緒に考える必要性があります。そして具体的な支援では、経験の棚卸しだけでなく、その時にどんな気持ちで仕事をしていて、どんなことにやりがいや満足感を感じていたのかを確認することが必要になってきます。さらに仕事以外にはどんな活動をしていたのか、それはなぜかなどという話をしながら、価値観や持ち味を言語化することを通して、自身の「軸」を見つけることが大切になってきます。さらに、その「軸」を中心に、社会の変化に適応して変化していくことを前提に、これからの働き方や生き方を自らが自律的に選ぶことを支援していく必要があります。
このような支援をするために、プロティアン・キャリアについて学び、自らが実践し続けること。これが、人生100年時代に生きるキャリアコンサルタントに必要なことだと、私は考えます。

板橋 理

板橋 理

プロティアンキャリア協会認定ファシリテーター
キャリアコンサルティング技能士2級
国家資格キャリアコンサルタント

フリーター、公務員、民間企業での営業・人事などを経験。現在は福島県内企業と副業者を結ぶプロジェクトに参画中。またキャリアコンサルタントとして就職支援、セミナーなどを実施し、多くの人が自分らしく働ける福島県を目指し奮闘中。

Twitter https://twitter.com/bashiou
Note  https://note.com/bancyao

プロティアン・キャリア協会からのお知らせ