昨年から続くCOVID-19の感染拡大に伴い、飲食、旅行、宿泊、エンタメなどの業界を中心に大きな打撃を受けています。その一方で、巣ごもり需要、オンラインサービスの利用増加などで、IT分野を中心に恩恵を受けている業界もあります。落ち込んだ経済の回復に向けた起爆剤といて期待されていた東京オリンピック、パラリンピック関連のインバウンド消費も見込めなくなり、未だ東京五輪の開催、あり方についても議論が続いています。
COVID-19の感染拡大は、学生の就職感にも例外なく影響を与えています。大手就職情報会社のディスコ(東京都文京区)が毎年調査している就職意識調査 (※1)を見ると、例年人気があった「ホテル・旅行」業界(21卒文系女子 6位)が、22卒新卒の調査では、ランキング圏外になりました。全体の傾向を見ると、COVID-19の影響が少ないITや保険関連、内需に強い不動産系の業界に人気が集まっています。もちろん外部環境の変化の影響が少ない、または変化の柔軟に対応できている、将来性がある業界・企業に入りたいという考えもあると思います。しかし、これまで憧れていた業界・企業が採用数を減らしたり、今後の展望も不透明だったりする中で、泣く泣く憧れていた業界・企業を諦めるという方も多くいるのではないでしょうか。そういう方の中には、大切にしていた「軸」が突然折られてしまい、気持ちの切り替えができず、モヤモヤしたまま就職し、就職後も悔いが残り、早期に離職するといったことにも繋がる方もいるかと思います。
COVID-19に限らず、今はVUCAと呼ばれる時代であり、今後も私たちが予想しない外部環境の変化は常に起こりうると考えられます。これまでの常識は通用せず、人々の価値観も変化しています。現在好調に成長している業界・企業であっても、いつ何があるかは全く予想できません。そのような時代でも、働き続けるために、自分の「就活・転職活動の軸」をどのように持てばよいのか、プロティアン・キャリアをヒントに考えてみたいと思います。
“〇〇業界・企業に入るための軸“を無理やり作り上げていないか
すでにご存知の方も多いと思いますが、プロティアン・キャリアとは、
【プロティアン・キャリア】=(アイデンティティ)×(アダプタビリティ)
で、肩書などの外的基準ではなく、自らの価値観に沿った内的基準(心理的成功)を目指し、時代変化に対応して学び続けていくキャリア開発の考え方になります。アイデンティティとアダプタビリティについて、ビジネスシーンで考えると、アイデンティティは、「ビジネスパーソンとしての私らしさとは何か」、アダプタビリティは「変化に順応する力」を意味します。(※2)
「就職・転職活動の軸」はプロティアン・キャリアでいう「アイデンティティ」と考えてよいと思います。自己分析は、まさに自分の「アイデンティティ」を整理し、言語化するための作業です。しかし、自己分析のやり方次第では、無意識のうちに、頭の中にある入社したい/憧れの企業に合わせた“内定を取るための「アイデンティティ」”を作り出してしまいます。その作り上げた「アイデンティティ」を本当の自分自身と思い込んだまま就職活動に臨むことで、入社後にミスマッチを起こしている方も多いのではないでしょうか。
自分の「軸」を見つけるためには
プロティアン・キャリアにおける成果とは、一人ひとりの「心理的成功」です。組織のなかで昇進昇格を目指すことだけが成果ではなく、個人が仕事に対しての満足感を得ながら、自らの内なる基準で成功を決めていきます。
「就職人気企業」「憧れの企業」「将来性があって安定していそうな企業」という視点で企業選びをすると、入社後に組織に依存したキャリアを形成することになりかねません。たとえ、その企業がこの世から無くなってしまったとしても、皆さんが存在している限り、皆さんのキャリアは続いていきます。その大前提をしっかりと認識した上で、自らを変化させていく意志を持ち、自律的かつ戦略的にキャリアを積み上げていくことが求められています。
では、どのように「軸」を見つけていけばよいのでしょうか。今回はヒントとなる考え方を3つ紹介します。
1つ目は、前述の通り、企業ありきの自己分析をしないことです。まずは、将来やりたいこと、なりたい姿など、まずは自分自身の価値観に向き合うことが必要です。そして、今の自分が持っているもの、足りないものをしっかりと言語化してみてください。最近ではコーチングやマインドフルネスなどがますます注目を集めていますが、その理由は自己に向き合い、内的基準や価値観に気づくことの大切さに多くの人が気づくようになったからでしょう。仮に入りたい企業が頭にある場合は、なぜその企業に入りたいと思ったのか、その動機を掘り下げて考えてみると良いと思います。
2つ目は、過去の経験や意思決定に拘り過ぎず、一度決めた「軸」ですら柔軟に変えていく勇気を持つことです。確かに過去の経験や考えが現在のあなたを形成していますが、過去に拘りすぎることで、未来を見る視野を狭め、多様な選択肢を無意識に捨ててしまうこともあります。あくまでもこれから先の未来、自分はどうなりたいか、何をしたいかを考え、そのために今できる行動をし、もし違うと思ったら、柔軟に方向転換していくことが大切です。
そして3つ目は、当たり前ですが、自分の価値観に100%合う会社はなく、自分が会社に合わせる必要もないという事実に気付くことです。その上で自分の価値観と近い理念やビジョンを掲げている会社を探して、実際に働く社員の方から話を聞き、会社の価値観が社員に浸透しているか、自分で確認してみましょう。
最後に
自律してキャリアを積み上げていくことは、決して簡単なことではありません。しかし、意識を変え、行動や習慣を変えていくことで必ずできるようになります。時代の変化に流されるのではなく、主体的に自らを変化させていくために、今日からでも何か1つ変化を起こしてみましょう。
(参考)
(※1) 21卒学生の3月1日時点での就職意識調査~キャリタス就活2021 学生モニター調査結果(2020年3月)~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000486.000003965.html
(※2)田中研之輔著 『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(2019)p.55、56
石川 憂季
大学卒業後、2016年に大手建設会社に入社、本社の人事部と財務部を経験。2020年にIT企業に転職し、現在は人事として採用とキャリア支援を担当している。
趣味はカレー屋巡りとスパイスカレー作り。
GCDF-Japan キャリアカウンセラー
国家資格キャリアコンサルタント
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