アスリート支援とスポーツの価値

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体育会学生の就職支援サイトスポナビを運営する株式会社スポーツフィールド(以下、スポーツフィールド)で活躍されている一方で、スポーツ庁の委託事業スポーツキャリアサポートコンソーシアム推進委員やプロティアンキャリア協会のアスリートキャリアアンバサダーを務めている吉浦剛史さんに、アスリートのキャリア支援への想いやきっかけを伺いました。

アスリートのキャリア支援をするきっかけとなったことを教えてください

 新卒で入社した、大和ハウス工業株式会社(以下、大和ハウス)の営業時代にNHKの番組に出演したことや営業として表彰されたことがきっかけで、大学からキャリア講座の講師にお声がけ頂けるようになりました。

 自分の職業観でぶれていないことは「人の人生に関わる(寄り添う)仕事をする」ということです。多くの人がマイホームを購入することは一生に一度と言われます。
今は人材業界にいますが、考え方は同じで誰かの人生の1ページになるような仕事をしようと思っています。

今でも大和ハウスの時に家をご購入いただいたお客様から便りが届いたり、ご自宅に招いて頂くこともあり有難い限りです。
大和ハウスの時の上司に社会人としての基礎や営業としての全てを教わりました。
それが今の私をつくってくれていると思います。本当に感謝しております。

いつかスポーツに関わる仕事がしたいというのと、スポーツの魅力や価値をあげたいと考えたときに、スポーツビジネスのマーケティングやブランディングではなく、まず本質的なスポーツの価値とは何かを考えました。
 
 人が何か行動を起こすことで「スポーツ」として目にみえるようになる。そうなると「スポーツは名詞なのか?動詞なのか?」となって、「目に見えないスポーツの価値とは何なんだろう?」って考えたときに、「やっている人がどんな人か」だと思うようになりました。
これが大学や企業でも一緒だと気づくようになりました。

企業も大学も、どんな人がそこに関わっているか、どんな人がそこから育ったか、どんな社員がいるのかということが大切ですよね。
だから「これはスポーツのキャリアだ!」となりました。ここまでたどり着くまでには、私としては珍しく結構深く考えました(笑)。

 人前で話す機会が増えた時にこの話もするようになったんです。
すると、スポーツをやってきた人たちが「うん。うん。」ってとても頷いて聞いてくれて、そこから更に様々なところからお声がけ頂けることが増えていきました。
何より口コミで講座が面白いとお声がけいただけるようになって有難いと思います。

スポーツフィールドに転職した経緯やきっかけは何ですか?また、現在の役割なども教えてください


 スポーツフィールドを知ったきっかけは、ビズリーチという転職サイトに登録したら、人材会社から電話がかかってきて「スポーツフィールドっていう会社の一次面接(面談)をしてみませんか?」と言われて行ってみたら、面接官が今の社長でした。

そこで20代の僕は偉そうに社長に「この会社の目標と目的は何ですか?」と聞きました(笑)。
すると社長の目つきが変わって、「今の目標は株式上場、目的はアスリートのキャリア支援をしている会社が上場するということはスポーツ人財の価値を世に証明するひとつのカタチになると考えている」と言われました。

「これはおもろい!上場企業に入るより、こういう企業で上場に向けて働く方がワクワクする」という感情になりました。
また、「なぜ上場なのか?」というところまで突っ込んで質問すると「会社は社会の公器である」と返って来ました。

その時点で心の中は決まっていました。

調べるとアスリートのキャリアの支援を基幹事業として株式上場している企業が日本になかったんです。
今現在もアスリートのキャリア支援を基幹事業として上場している企業はスポーツフィールドだけです。

 ただ、そうは言っても入社した時には社員が30人程度で、新卒事業はありましたが、キャリア支援事業(中途採用支援事業)はありませんでした。そのため、「これ、どうする?」というところからスポナビキャリアがはじまりました。

 最初はスポナビキャリアの関西エリアは私1人でそこから1人増え、また1人と増えていきました。
現在の関西のキャリア採用支援事業責任者の中山さんと2人、そして4人ぐらいのチームの時に数字がなかった時期が一番大変でしたね(笑)。

5人を超えるメンバーになって来て毎月の売り上げもコンスタントになってきました。
そこから新卒採用支援のマネージャーをさせて頂き、現在は関西と九州の新卒採用支援のエリアマネージャーを兼任しながら大学やチームからのキャリア講座に対応するキャリアサポート推進室室長も担っております。

昨年はスポーツ庁委託事業の仕事をしながら、大学の授業や講座にも行きながら、約60名の営業管理職をしておりました。
1社にしか勤めていないのに、いろんなことをやっているから、「プロティアンやな」って個人的に思います。ただ、エリアマネージャーがそんな動きができるのも京都、大阪、神戸、広島、福岡の各オフィスのマネージャーが私より優秀だからです。

 今の役割は、各マネージャーが仕事をしやすい環境をつくることぐらいしか私にはできません。直接営業をしたり求職者や学生とコミュニケーションを取ったりする機会もほとんどありません。
「現場第一主義」が営業はうまくいくと思っています。

実際に大学の授業では、どのような想いでどのような話をされているんですか?

 キャリアの授業では「極論、キャリアは生まれた時から始まっている」ということに気付いてもらいます。
例えば、大学の野球部の学生に「今からJリーガーになりたいと思って、今からJリーガになろうと思ってなれるか?って、なれないんです」って。

また、逆にサッカー部の学生に「調べたらプロ野球選手の方が平均年俸が高い。じゃあ、今から野球選手になれるか?って、なれないんです」って。
じゃあ、就職活動っていつから始まると思う?って聞くとみんな「はっ!」と気がつくんです。
「医者という職業につきたい人の就職活動は、高校3年生の時に医学部のある大学に合格するというころから始まっている。

じゃあ、みんなの就職活動はいつから始まっていると思う?」ということを1、2年生にも話します。
そのため、何かを教えたいとか伝えたいという気持ちではなく、「気づいて欲しい」という気持ちです。スポーツ庁のカンファレンスの時にも話しましたが「気づく力」と「学ぶ力」と「変換する力」の3つがとても重要だと考えております。

 また、就職活動を早く始めた方が特だとか、早く始めたらどうだとかいうことに関しては「早ければ選択肢が多いだけ」ということを話しています。
遅くてもいいですが、遅い方を選ぶのであれば「選択肢が狭くなっている」ということを自覚して遅く始めることが大切だと伝えています。

これを知らずに遅く始めると損した気分になるから、理解した上で遅く始めるならOKだと話しています。だから「ギリギリまで競技をやってOKだ」と。
ギリギリまで社会人でも競技を続けたいから秋季リーグ戦まで戦うのも全然OK。
その代わり、選択肢が狭くなっていることを理解した上でやらないと、終わった時に自分は何をやっていたんだということになります。
そのため、早い段階からそういう話はします。
それであれば、学生たちは理解できるし、納得できるじゃないですか。

 指導者に対しても、ただ単に就職活動やアルバイトを禁止するのではダメだという話をよくしています。
禁止というのであれば「禁止と引き換えに競技に専念した場合はこのような可能性は上がる。一方で◯○な可能性は狭まる」ということを伝え、それに合意した上で禁止にするのは良いと思うという話をよくしています。

 そして何より、学生たちの「気づき」が大事だと考えています。気がついたら行動できるので、なぜ自己分析が大切かに気づくワークやなぜ業界研究、企業研究が大切かに気づくワーク、なぜ友達が大切か気づくワークなどをたくさん取り入れています。

 気づきは十人十色だと思うんです。
これは就職活動と一緒で、10人いたら10通りの職業でOKです。
これが学校のテストのように問いの答えは1つではないということに気づくと、学生たちはちょっとテンションが上がります。

「就職活動はテストじゃないんだ」そして隣りの友達は○○になりたい、自分は□□になりたい、自分は△△にいきたい、と全部正解なんだと伝えています。その代わり、それを叶えるかどうかは自分次第で、どんな気づきがあるかがすごい重要だという話をよくします。

授業を聞いた学生たちはどのような反応をしていますか?


 「〇〇に気がつきました」というコメントが多いです。

一部スポーツフィールドのHPにも載せていますが、
「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる。これが一番胸に刺さった」、「まずは部活動と勉強に一生懸命に取り組みます。

これから先、壁にぶつかった時に一つずつ乗り越えられる人になれるように頑張っていきたいです」など、就職活動の話を聞いて、気づきを得て自分に置き換えてアンケートにコメントを書いている学生も多いですね。

素直に感想を書いてくれる学生が多く、先生方にはいつもより文章量も多いと聞きます。
できない学生がいるのではなく気づいていない学生がいるだけだといつも思っています。

最後にアスリートへのメッセージをお願いします。


 プロスポーツ選手でもそのスポーツ(競技)の価値を落とす行動をしている選手もいると思うんです。
逆に、プロでなくてもスポーツの価値を高めている人もいます。

例えば、大学までスポーツをやっていた学生が、スポーツと関係のない仕事について、そこで必死に頑張ってその会社や社会に貢献したら「〇〇大学の人は良いよね。
やっぱりスポーツは良いよね。
やっぱり大学までスポーツをやってきた人はいいよね」となります。
プロになれなくても、スポーツをやめても、そのスポーツの価値を上げることも下げることもできると考えています。

 人生の半分以上の時間を費やしてやってきたスポーツの価値を上げられる人になるのか、価値を下げる人になるのか、どっちになりたいか考えると自ずとこたえは決まる思います。
そのために、自分にあった仕事とか、自分がどんなことをやりたいのかとか、これなら本気でできるんだっていう仕事を本気で見つけてほしいです。

たまに「やりたいことがない自分でもわからない」という人がおられますが、そういう人に共通していることがあります。それは、そもそも「今」目の前のことに本気になっていないということです。
「今」の連続が「未来」なので、今本気になれない人は時間が経っても本気にはなれません。

「スポーツをやってきた人が社会で活躍し社会に貢献してはじめてスポーツの価値を上げると思っています」

吉浦 剛史

株式会社スポーツフィールド
キャリアサポート推進室長 兼 関西・九州エリアマネージャー

2015年スポーツフィールド入社。スポーツ経験者、アスリートのセカンドキャリア支援サイト「スポナビキャリア」関西エリアの事業立ち上げ責任者として従事。2017年に体育会学生の新卒採用支援サイト「スポナビ」関西エリア責任者兼キャリアサポート推進室長に就任。2020年6月より現職。2020年度関西エリアはコロナ禍において営業生産性社内No.1エリア、試用期間後の離職率0%、コロナ感染者ゼロを実現

【その他】
・スポーツ庁委託事業 スポーツキャリアサポートコンソーシアム推進委員
・プロティアンキャリア協会 アスリートキャリアアンバサダー
・流通科学大学 特別講師(2019年2020年)
・関メディベースボール学院 キャリアサポートアドバイザー

インタビュアー
長井 小百合(ながい さゆり)
プロティアン認定ファシリテーター
プロティアン認定メンター
国家資格キャリアコンサルタント

プロティアン・キャリア協会からのお知らせ