日本酒からみるキャリア戦略

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人生100年時代、VUCA、そして新型コロナウイルスによる世の中の変化…。先が読めない時代を生き残るキャリアについての考え方と、昨今の日本酒の生き残りをかけた変化との共通点について、キャリアコンサルタントであり国際唎酒師でもある筆者の視点で紹介します。
 

日本酒と個人のキャリア形成…一見関係なさそうな2つの意外な共通点とは

人生100年時代、VUCA、そして、新型コロナウイルスによる社会の大きな変化で自分自身のキャリアについて不安に感じている方も少なくないのではないでしょうか。時代の変化に変幻自在に対応し、自分らしく生きる…実は日本酒の世界でも同じことが起きているのです。今回は日本酒がどのように変化に対応してきたのか、国際唎酒師でもある筆者の視点で紹介します。そんな日本酒から学ぶ、個人のキャリア形成のヒントとは。
 

日本酒の基本的な知識

日本酒を詳しい方もそうでない方もご理解いただけるように、まずは日本酒の基本的な知識を簡単に紹介します。
日本酒は米、米こうじ、水、(醸造アルコール)を原料として造られたアルコール度数22%未満のお酒を指します。
「純米大吟醸」「本醸造」などとラベルに記載されているものにも実は以下のような決まりがあります。
 

精米歩合
原材料
50%以下 60%以下 70%以下 規定なし
米、米こうじ、醸造アルコール 大吟醸酒 吟醸酒
特別本醸造酒
本醸造酒
米、米こうじ 純米大吟醸酒 純米吟醸酒
特別純米酒
純米酒

表1.特定名称酒の条件
 
大きくは醸造アルコールの有無と使用したお米がどれくらい削られているかを表す精米歩合によって使用できる名称が変わるということになります。
日本酒のラベルには、上記の「原材料」、「精米歩合」などの他にも、「お米の種類」や「酵母」など何を使ってどのように造られたのかなどが表記されています。
また、お米は「山田錦」「雄町」「美山錦」「五百万石」など、日本酒に適した品種が使用されており、それぞれに特徴があります。
基本的には良いお米を使い、半分以上お米を削る「純米大吟醸酒」や「大吟醸酒」などの値段が高くなる傾向にあります。
さて、そんな日本酒を取り巻く環境も変わっています。流通網の発展と、口コミを含めた情報が多く収集できるようになった現代では、良いお米を贅沢に使っているというだけでは、他との違いがわかりにくくなってきました。また、消費者の価値観の多様化により、好みの幅も広がっています。では、日本酒はどのような対応をとっているのでしょうか。
 

スペックだけでは選んでもらいにくくなった日本酒の変化

「原材料」「精米歩合」などのスペックだけでは選んでもらいにくくなった日本酒がどこに向かったか、端的に言うと「差別化」です。高スペックである「純米大吟醸酒」「大吟醸酒」といったものをただ目指すのではなく、各蔵のこだわりに共感してもらった人に呑んでもらう、といういわば「No1戦略」から「Only1戦略」へのシフトが起きています。
ではどのように、「Only1」を目指すのか、基本的な考え方のひとつとしては「蔵の特徴を際立たせる」ことです。自分の蔵にはどのような特徴があるのか、それは蔵のある土地であったり、働いている人であったり、日本酒に対するこだわりであったりと様々です。
例えば、元々蔵に住み着いていた菌(酵母)以外のものを使わず、地元県産の原材料のみにこだわる、など「アイデンティティ」とも言える、「らしさ」を再認識し、それを軸に新たなチャレンジをして変化に対応する。その結果として、元々の蔵の特徴を引き継ぎつつも新たな要素が加えられた新商品が毎年のように出荷される。まさにこのようなことが多くの蔵で起きています。その中でも「こんな人にこんな場面で呑んでもらいたい」といった呑み手の顔を想像し、多様化するニーズにうまく狙いを定めて適応している蔵は、価値向上に成功している変幻自在な蔵とも言えるでしょう。
 

日本酒から学ぶこと

では、この変化を私達一人ひとりのキャリアに置き換えるとどうなるでしょうか。
「原材料」や「精米歩合」などのスペックとしては、「所属会社」や「役職」、「学歴」、「資格」、「スキル」などの履歴書に書かれるような「外的キャリア」が該当します。
一方で、「食事に合うお酒」や「乾杯に合うお酒」、「地元のものにこだわる」といった蔵の方向性は、「人生の軸」や、「自身の特性」など価値観を表すような「内的キャリア」が該当します。
外的キャリアだけの勝負には息苦しさを感じる方も少なくないのではないでしょうか。また、日本酒と同じく、転職サイトやSNS等により情報も多く流通している現代では、「どこの会社で何をやっている」だけでは、差別化が難しいのが現状です。現在の環境が安定し続けていれば良いのかもしれませんが、残念ながらVUCAな時代では、何が起きるか予測ができません。なんの準備もなしに急な変化が発生してしまうと、その先の対応の選択肢は狭くなってしまいます。つまり、「○○会社の部長」といった、外的キャリアだけでは、いざ転職となったときに選んでもらいにくくなっているということです。
このような状況を避け、自分らしく生き抜くためにも、自分自身の「アイデンティティ」を明確にし、変化し続けることで、「Only1戦略」を自身のキャリアにおいても実行することができるのではないでしょうか。
自身の「アイデンティティ」を探るヒントは過去の経験にあります。経験から蓄積されたものをベースに、“今”どう適用するか。みんなと同じではなく、自分なりの差別化、自分らしさの確立を。そのためにも、まずは自分自身の内的キャリア、外的キャリアの棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。

佐々木 隆太

佐々木 隆太

社内複業/社内転職を繰り返し、組込みソフトウェア開発→人事→新規事業企画などを担当。現在の社内複業では社内風土改革、組合員向けセミナーなどを実施中。社外複業としては自分らしく生きることを中心としたキャリアセミナー/相談など幅広く実施中。

【資格】国家資格キャリアコンサルタント/Points of you explorer/メンタルヘルス・マネジメント(ラインケア)/国際唎酒師/調味料名人/BBQ Adviser/プロジェクトマネージャ(情報処理技術者)など
【Vision】「みちをつくる~すべての人に自分らしさを~」

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