日本酒からみるキャリア戦略【燗酒編】

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人生100年時代、VUCA、そして新型コロナウイルスによる世の中の変化…。先が読めない時代を生き残るキャリアについての考え方と、昨今の日本酒の生き残りをかけた変化との共通点について、キャリアコンサルタントであり国際唎酒師でもある筆者の視点で紹介します。今回は「燗酒」編です。

日本酒と個人のキャリア戦略…燗酒に隠されたヒントとは

2020年は今後語り継がれるであろう、大きな変化の年となりました。緊急事態宣言、リモートワーク…。自身の周辺の環境が変わった人もいるのではないでしょうか。この変化を数年後に振り返ったときにポジティブなものにするか、ネガティブなものとなってしまうのか。まさにそのどちらになるかの分岐点に私達は立っているのではないかと思います。実は日本酒の燗酒も変化にどう対応するかによって、ポジティブにもネガティブにも変わるものなのです。そんな燗酒から学ぶ、環境変化へ対応するキャリア戦略のヒントとは。

燗酒の基本的な知識

温めた日本酒=「熱燗」とひとくくりに言いがちですが、実は温度によって呼び方が変わります。
日本酒に詳しい方もそうでない方もご理解いただけるように、まずは日本酒の基本的な知識を簡単に紹介します。

表1.日本酒の温度による呼び方の変化(目安)

名称 温度(目安)
飛び切り燗 55℃~60℃
熱燗 50℃
上燗 45℃
ぬる燗 40℃
人肌燗 35℃
日向燗 30℃
常温(冷や) 20℃~25℃
涼冷え 15℃
花冷え 10℃
雪冷え 5℃

実はこのような呼び方があるように、日本酒は5℃単位でも変化を楽しむことができるのです。
冷たい日本酒をオーダーし、一口飲み、話に盛り上がっていたら、途中から味の印象が変わった。または、熱燗で出てきた日本酒が途中で味の印象が変わった。そんな経験をしたことがある方もいるかも知れませんが、その要素の一つとして温度が影響しています。

また、「熱燗は酔っ払う」と敬遠している方に出会うことも多いのですが、個人的な考えとしては「燗酒は酔いがすぐ現れる」「冷やは酔いが後から来る」だと思っています。冷やの場合、アルコールが体内で温められてから本領を発揮する分、後から酔いが来るという説です。後から来る分、飲みすぎてしまいやすいのは冷やであると考えています。
どちらにせよ「和らぎ水」を間に飲むことは、舌のリセットにもなり、体に優しいのでおすすめです。

状況に合わせた温度帯の設定

では、どの温度にすればいいのか、ということなのですが、お酒によっては温度を上げすぎると崩れてしまうものもあり注意が必要です。お酒ごとに、適した温度帯が広いものもあれば狭いものもあり、これもまた日本酒ごとの「個性」ということとなります。
後輩、部下の指導に例えるならば、「厳しく育てる」と言っても、人によってどこまで厳しくしていいのか、そもそも厳しくしてはいけないのか、人それぞれ、ということを思い浮かべていただければと思います。

また、最終的に同じ温度にする場合でも、急速に温度を上げるのか、ゆっくり上げるのか、更には容器を移し替える「お燗タージュ」をするのか、一度温度を上げてからその温度まで下げたのか。同じお酒で同じ温度でも燗のつけ方によって別の顔を見せるのです。
すべてのお酒に通用する絶対的な技があるわけでもなく、そのお酒の特徴をよく観察して対応を変える必要があります。
これは、同じ研修を受けても、職場に戻って全員が同じ活躍ができるわけではない、ということと近いイメージです。

また、お酒を提供する人の好みや、そのときに合わせる料理との相性も重要なポイントです。
自分がホームパーティ等で提供する場合は、タイプの違うお酒を複数用意し、相手の好みが把握できるまでは、それぞれ5℃くらいずつ温度を変えたり、いろいろなパターンで少しずつ変えたりし、それぞれの変化を楽しんでもらいつつ、反応を見て、おすすめポイントを探っていきます。相手は普段どんなお酒を好んで飲み、何を求めているか、その日は何をどれだけ飲んでいるか、今用意できるつまみは何があるのか、など会話の中で探っていくのも醍醐味です(笑)
こういった場面で提供の質を高められるよう、一人でも全く同じことをトレーニングと称して行い、「このお酒は何度にして何と合わせて…」と、そのお酒がより輝くシーンを想像して楽しんでいます。
すなわち「育成計画」です(笑)

日本酒から学ぶこと

さて、またお酒の話が長くなってしまいましたが、この燗酒の考え方を私達一人ひとりのキャリア戦略に置き換えるとどうなるでしょうか。ここからは意識を日本酒から、あなた自身の内面に移しながらお読みください。
ポイントは大きくは3つです。
お酒の特徴=あなた自身の特徴(価値観や興味、能力など)
お酒を飲む人の好み=相手や職場、市場で期待される価値
これらを把握したうえで、
燗をつける=変化に対応する
変化への対応は日本酒同様、ただ、燗をつければいい(変化すればいい)というというわけではなく、あなたらしく輝くためには何が必要なのか考える必要があります。

まずは自分自身の理解です。自分はどんな価値観や興味、能力を持つのか、改めて考えてみてください。「興味、能力と言っても特に…」と思う方も少なくないと思いますので、今回は価値観、すなわちあなた自身が「大切にすること」について考えてみましょう。あまり難しく考えず、過去の楽しかったことや嫌だったことを思い出すところからのスタートで大丈夫です。例えば、「学生時代のバイトで仲間同士の会話がないのが嫌だった」とか、「自分なりに考えて工夫したらお客さんに喜んでもらえて嬉しかった」とか、「今までできなかったことができた瞬間がすごく楽しかった」とかそういったことをヒントにしましょう。その中から「自分は人間関係とか、挑戦することを大切にするのかも」と仮の軸でもいいので言語化してみてください。また、どんな人間関係がいいのか、どのくらいの挑戦がいいのかも人それぞれ違いますので、もう一歩踏み込んで考えることで、より自分が輝く「温度帯」が少しずつわかってきます。

次に相手の理解です。職場や市場ではどんなことが期待されているのか。求められる能力はイメージしやすい方だと思いますが、今回は「相手の大切にすること」について考えてみましょう。スピード、結果、プロセス、コスト、安定、革新性、技術力など、会社や職場だけでなく、人によっても大切にすることは違います。ビジョン・ミッション・バリューやクレドなどが設定されている会社であればぜひ参考にしてみてください。明文化されていない場合は、過去の判断や方針、言動などから共通点を見つけ、自分なりに言語化してみることをおすすめします。

自分と相手が見えてきたら、その中でどのように自分を変化させ対応するかを考えます。ここで注意が必要なのは、「自分を押し通すわけでも、相手にただ合わせるわけでもない」ということです。例えば、自分が大切にするのは「挑戦」、職場が大切にするのは「安定」と、一見真逆の価値観を持っている場合であっても、ぜひ一度両立できる方法は無いか考えてみてください。求められる「安定」とは具体的にはどういったことで、何がどれくらいあれば安定と感じるのか。そして、そのうえでできる「挑戦」は何かないのか。そしてそれを実現するために自分自身に足りていないものは何で、どのように対応するか。自分の特徴を活かしつつ、相手の要求を満たすために、自らをどう変化させていくのかという視点で考えましょう。

おわりに

今回は日本酒の燗とキャリア戦略の共通点についてお話させていただきました。自分と相手をまず理解する。そのうえで自分の特徴を活かしつつ、相手の要求を満たすために、自らをどう変化させていくのか。これらを実践するにあたっては、普段からの準備が大切です。残念ながらお酒の知識と同様、キャリアや自分自身のことについて向き合う方法を学校で教わってきている方は極々少数かと思います。助けが必要な場合は、国家資格キャリアコンサルタントに相談することも選択肢にいれていただけると良いかと思います。
この変化の激しい時代をポジティブかつ変幻自在に生き抜くためにも、まずはあなたにできる一番小さな一歩を見つけて踏み出してみてください。

佐々木 隆太

佐々木 隆太

社内複業/社内転職を繰り返し、組込みソフトウェア開発→人事→新規事業企画などを担当。現在の社内複業では社内風土改革、組合員向けセミナーなどを実施中。社外複業としては自分らしく生きることを中心としたキャリアセミナー/相談など幅広く実施中。

【資格】国家資格キャリアコンサルタント/Points of you explorer/メンタルヘルス・マネジメント(ラインケア)/国際唎酒師/調味料名人/BBQ Adviser/プロジェクトマネージャ(情報処理技術者)など
【Vision】「みちをつくる~すべての人に自分らしさを~」

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